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- 2013/8/4付 ニュースソース 日本経済新聞 朝刊
日中韓3カ国が2回目の自由貿易協定(FTA)交渉を上海で開いた。領土や歴史認識をめぐって日本と中韓両国との外交関係が冷え込む中で、経済を軸とする対話の枠組みの価値は大きい。
通商交渉の基本は、互いに譲り合い、ともに経済成長を目指す協調の精神だ。東アジア地域の経済を強くする方策を腰を据えて議論し、信頼関係を築く糸口にしていくべきだろう。
中韓は日本を含めたFTA交渉には前向きだ。中国の団長は「私たちは同じ船に乗り、同じ目的地を目指している」と語り、韓国も交渉前進に意欲を示した。
3カ国の交渉が動き出したのはやはり、日本が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加した影響が大きい。中韓両国はTPP交渉に加わっていない。日米主導で東アジア地域の次世代の貿易・投資ルールのひな型ができることに、焦燥感もあるだろう。
日本のTPP交渉参加の効果もあり、経済外交では3カ国の歯車がかみ合い始めている。通商交渉を通して日中韓が互いに必要とする関係であることを確認し、高い水準の協定締結を目指したい。
日本にとって最大の焦点は、中韓の関税削減である。日本は90%以上の貿易品目で自由化を目指すが、中韓はまだ慎重な姿勢を崩していない。両国は2国間でも中韓FTA交渉を進めており、日本との自由化に先行して、まず中韓で連携を深める構えだ。
3カ国が歩調を合わせるのが望ましいが、こうした中韓の動きを日本が止められるわけではない。むしろ日本は関税削減だけでなく、他の交渉分野でも積極的な自由化の提案をし、自由貿易圏として日中韓FTAの魅力を高める努力をすべきだ。
そのためには、投資ルールの整備、原産地証明の手順、国有企業の改革など、日本主導で取り組むべき課題は多い。中国が抵抗する知的財産権の保護についても、TPPの高い水準には及ばなくても粘り強く交渉してほしい。
中韓を含む自由貿易の枠組みには、さらに大きな東アジア地域包括的経済連携(RCEP)がある。日中韓FTAの行方は東アジア全域の自由化の進展を左右する。
TPP交渉の進展をテコに、日中韓3カ国FTAを実りある中身にし、自由化とルールづくりの輪を地域全体に広げていくのが通商大国である日本の責務である。